総務省が2024年3月に公表したデータによると、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%と約4割に達しています。このデータから見るに、医療現場のキャッシュレス決済はあまり進んでいないのが現状です。今回の記事では、クリニックでキャッシュレス決済が進まない理由と導入メリットを解説します。
クリニックのキャッシュレス決済普及率
クリニックを含む医療機関におけるキャッシュレス決済の普及率は、現状ではあまり高くないことが明らかになっています。厚生労働省が令和4年3月に公表した調査結果によると、最も普及しているクレジットカード決済でさえ、導入率は全体の57.4%にとどまっています。
これは、医療機関の半数以上がクレジットカード決済に対応しているものの、依然として多くの施設で現金支払いが主流であることを示しています。さらに、近年急速に普及が進んでいるQRコード決済の導入率は驚くほど低く、わずか3.7%の医療機関でしか利用できない状況です。
QRコード決済の中では、PayPayが最も多く導入されており、次いでLINEペイ、Alipayと続いています。しかし、全体的に見るとQRコード決済の普及はほとんど進んでいないと言えます。
電子マネーについても、その導入率は4.7%と非常に低い水準にあります。これはQRコード決済よりもわずかに高い程度で、大多数の医療機関では利用できない状況です。導入されている電子マネーの種類としては、交通系ICカードが最も多く、次いでWAON、QUICPayなどが続いています。
これらのデータから、クリニックを含む医療機関におけるキャッシュレス決済の普及は、全体的に見て非常に遅れていると結論付けることができます。クレジットカード以外の決済方法、特にQRコード決済や電子マネーの導入率が極めて低いことは、医療分野におけるデジタル化の遅れを示す一つの指標と言えるでしょう。
この状況は、患者の利便性向上や医療機関の業務効率化の観点から、今後改善の余地が大きいと考えられます。以上より、クリニックのキャッシュレス決済はあまり進んでいないことがわかります。
キャッシュレス決済が進まない理由は?
医療機関におけるキャッシュレス決済の普及が遅れている背景には、コスト面と患者側のニーズ、そして医療機関側の事情が複雑に絡み合っています。キャッシュレス決済を導入するには、決済手数料や端末導入費用、インターネット回線契約など、クリニック側にとって無視できないコスト負担が発生します。
一方、患者側、特に高齢の患者にとっては現金払いは手数料がかからず、支払いのタイミングを自身でコントロールできるという利点があります。クレジットカードを持っていない、あるいは使い慣れていない患者も少なくなく、キャッシュレス決済導入の効果が限定的になる可能性も否めません。
また、一部の患者にとっては、キャッシュレス決済は敬遠しがちなものとなっているのも事実です。特に高齢者にとっては、新しくキャッシュレス決済の方法を覚えることが負担になりがちです。
さらに、医療機関側の視点からは、キャッシュレス決済の入金サイクルの遅さも課題として挙げられます。現金払いと比較して、入金までにタイムラグが発生するため、資金繰りの面で不安定さを招く可能性も懸念されます。
これらの要因が複合的に作用し、医療機関におけるキャッシュレス決済の普及を妨げています。患者のニーズ、導入コスト、資金の流動性などの課題を解決することが、キャッシュレス決済の普及を促進する鍵となるでしょう。
キャッシュレス決済のメリット・デメリット
クリニックがキャッシュレス決済を導入することで、患者とクリニックの双方にメリットとデメリットがあります。
メリット
まず、患者にとって最大のメリットは、会計の待ち時間短縮と会計時の接触機会削減による感染症リスクの軽減です。現金の受け渡しや釣り銭の確認が不要になるため、会計がスムーズになり、待ち時間の短縮に繋がります。
また、現金に触れることなく支払いが完了するため、感染症対策としても有効です。さらに、キャッシュレス決済は、患者の利便性を高め、クリニックの集患率向上にも貢献します。現金を持たずに受診できるため、急な診察が必要な場合でも安心です。
ポイントやマイルを貯めたり、利用できる決済方法でクリニックを選べる点は、患者にとって大きな魅力となります。これらの要素は、他のクリニックとの差別化にもつながるでしょう。
クリニック側のメリットとしては、会計業務の効率化による業務負担軽減、そしてオンライン診療への対応が挙げられます。キャッシュレス決済を導入することで、現金の管理やレジ締め作業が簡略化され、会計処理の時間が大幅に短縮されます。
空いた時間を他の業務に充当することで、業務全体の効率化に繋がります。また、オンライン診療においては、キャッシュレス決済はほぼ必須と言えるでしょう。未払いリスクを減らし、患者に別途支払い手続きを求めることなく診療を提供することが可能になります。
このように、キャッシュレス決済は、患者とクリニック双方に多くのメリットをもたらします。時代に合わせた決済方法の導入は、クリニックのサービス向上に繋がり、患者満足度向上にも貢献すると言えるでしょう。
デメリット
一方、キャッシュレス決済にはデメリットも存在します。キャッシュレス決済は現金と異なり、決済ごとに手数料が発生します。一般的に決済総額の3%前後の手数料がかかるため、クリニックの収益を圧迫する可能性があります。
特に、初期導入費用やランニングコストを抑えたいと考えているクリニックにとっては、大きな負担となるでしょう。また、キャッシュレス決済の導入には、専用端末の購入や利用登録料などの初期費用も必要です。
さらに、決済手段によっては、支払いから入金までに1〜2ヶ月かかる場合があり、クリニックの資金繰りに影響を与える可能性も考えられます。これは、診療費をできるだけ早く現金化したいと考えているクリニックにとって大きなデメリットと言えるでしょう。
さらに、キャッシュレス決済の導入は、スタッフへの教育も必要となります。新しい端末やシステムの使い方を習得するために、通常業務に加えて教育時間を確保しなければならず、人手不足のクリニックにとっては大きな負担となる可能性があります。
特に高齢の患者が多いクリニックでは、キャッシュレス決済を利用しない患者も多く、導入してもメリットが少ない可能性もあります。キャッシュレス決済の導入は、患者層の属性も考慮して慎重に判断する必要があります。
まとめ
医療機関におけるキャッシュレス決済の普及は他業界に比べて遅れていますが、導入には多くのメリットがあります。キャッシュレス決済の普及が進まない理由には、初期導入費用や手数料の負担、入金サイクルの遅延、そして高齢患者の現金志向が挙げられます。しかし、キャッシュレス決済は会計の効率化、感染症対策、患者利便性の向上など、多くのメリットをもたらします。今後は、医療現場のデジタル化を進め、患者満足度を向上させるためにも、キャッシュレス決済の導入が求められるでしょう。クリニックは、導入コストと利益向上のバランスを見極めながら、慎重に検討していくことが重要です。キャッシュレス決済比率の高まりを考えると、早晩、クリニックにも影響が及ぶのではないでしょうか。ぜひ本記事を参考に、クリニックのキャッシュレス化を検討してみてください。